参考文献

「脊髄小脳変性症の臨床」 阿部康二編著 新興医学出版社 P109

                   臨床と病理の解離

上記の病理学的な基礎的事項を踏まえて、SCD各疾患のおおまかな病変分布を理解しておけば、画像診断や臨床所見から、患者の現在の病理像も類推できるかというと、そこには若干の問題が残る。少なからぬSCD例で、臨床所見と病理所見の解離をみるからである。この事実をあらかじめ理解しておく必要がある。
A、変性(数的萎縮) すれば臨床症状を呈するか
 ある神経系(神経細胞とその繊維) が変性して脱落すれば、それに見合った臨床症状が出現することが予想される。これが神経症候学の基本的な考え方の一つである。たとえば、「小脳」が変性すれば運動失調ataxia、「黒質」が変性すれば、パーキンソニズムが惹起されることはだれでも想像する事である。しかし、SCDの諸疾患の中には、この単純な図式だけでは臨床と病理を相関づけることができないものがある。
B、特定の部位が変性して神経症候を発現するための条件
 パーキンソン病患者では黒質が変性するために、パーキンソニズムが発現すると理解されている。しかし、そこには、黒質が変性すると同時に、他のどの部位が保たれている必要があるのか、という考え方をもつことはあまりない。しかし、この点を明らかにしておかないと、SCA2患者の臨床像を正確に把握できない。なぜならば、SCA2では黒質変性が強い点に特徴があるが、患者がパーキンソニズムを呈することは少ない。となると、ある特定の部位がパーキンソン病の患者では保たれているのに、SCA2の患者ではそこが傷害されているために、臨床的にはそれがパーキンソニズムを修飾して、それをわかりにくくさせている可能性がある。それはどこか ?  一方で、OPCA患者は線条体黒異質変性症striato-nigral degeneration (SND) を併発するとパーキンソニズムを呈するようになるが、高度なOPCA病変を有していても小脳性運動失調は目立たない。この機序 もまだよくわかっていない。
 SCDの諸疾患はしばしば多系統に病変が及ぶ。その意味でも、臨床症状として目立たないから 、ある部位の変性はない、と臨床段階で即断するのは慎重であるべきである。
 そこで、SCD各疾患の臨床と病理の相関を考察する際には、それぞれの疾患に固有の病理像を理解した上で、次のような考え方をもつことが必要である。すなわち、ある部位が変性しているとしても、他の特定の部位が保たれているから、臨床的にはある症候が発現される。あるいは、ある部位が変性していても、他の特定の部位も変性しているために、当然発現すべき臨床症状が目立たなくなっている。という考え方である。この点が従来の臨床研究では不十分であった。ちなみに、黒質変性という点では共通していても、SCA2にあって、パーキンソン病にない所見としては、強い小脳皮質変性(橋核小脳求心系と下オリーブ核もある) と脊髄後索変性があり、症例によっては赤核や淡蒼球にも病変が及び、まれには尾状核優位の線条体変性を有する症例もある。これらと黒質病変との機能的なかかわりかたを考慮した上で、SCA2患者のパーキンソニズムの有無を詳細に検討していく必要がある。

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